ネット上で「世界文学全集」の全巻セットが想像以上の安さで出品されているので、自分も1セット購入してやろうと思い、どれが良いのか比較してみました。収録されているイタリア語作品情報も合わせてメモしておきます。
世界文学全集とは
「世界文学全集」(大系とも)とは、日本以外の作家による世界的な名作を集めた、全体で約50から100巻に及ぶシリーズものです。かつては新潮社、集英社などの主要出版社がこぞって出版し、戦後1960年代から1970年代あたりまでが最盛期だったようです。
「世界文学全集」には標準的な装丁のもののほか、豪華版・愛蔵版と呼ばれるインテリア小物としても使える立派な装丁のシリーズや、学生がお小遣いの範囲で買えそうな比較的安価なシリーズもありました。
どんな全集があるか
1960年代から1990年代までに各社から出版された主な「世界文学全集」には以下のものがあります。
①筑摩書房『世界文学全集』(70巻+別冊1) 1966-1970年
②筑摩書房『筑摩世界文学大系』(全89巻) 1971-1982年
③新潮社『新潮世界文学』(全49巻) 1968-1972年
④集英社『愛蔵版 世界文学全集』(全45巻) 1972-1976年
⑤集英社『デュエット版 世界文学全集』(全66巻) 1968-1971年
⑥集英社『世界文学全集 ベラージュ』(全88巻) 1977-1981年
⑦集英社『集英社ギャラリー世界の文学』(全20巻) 1989-1991年
⑧河出書房『グリーン版世界文学全集 』(全100巻) 1959-1966年
⑨河出書房『カラー版世界文学全集』 (全50巻/別巻2) 1966-1970年
⑩河出書房『世界文学全集』 (全25巻 別巻1) 1989年
⑪中央公論『世界の文学』 (全54巻) 1963-1967年
中央公論『世界の文学 新集』 (全46巻) 1968-1973年
二つのシリーズに重複なく合わせて全100巻
⑫中央公論『世界の文学セレクション36』(全36巻) 1993-1995年
⑬講談社『世界文学全集』(全103巻) 1974-1986年
⑭学習研究社『世界文学全集』(全50巻) 1977-1979年
※上記がすべてというわけではありません。
※⑤⑧は発売当時の売値が1冊1000円を切る廉価版。
どんな作品が収録されているか
収録されている作品は、言うまでもないですが「世界的名作」として世間に認知されているものが多数を占めます。
1980年代までに出版された上記の①③④⑨の4種の全集すべてに収録されている作品には、例えば以下のものがあります。
- シェイクスピア『マクベス』
- ゲーテ『ファウスト』
- スタンダール『赤と黒』
- ドストエフスキー『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』
- トルストイ『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』
- モーパッサン『女の一生』
- ロレンス『チャタレイ夫人の恋人』 など
当時の社会・流行を反映しているのかどの全集もロシア文学が必要以上に充実している印象です。時代的には、古代ギリシャのホメロスから始まる網羅的なセットもあれば、一番古いものがシェイクスピアという割り切りの良いセットもあります。
後者の例が『新潮世界文学』全49巻で、他社のセットと大きな差異があります。ダンテ、セルバンテスのような古い作品や、「紅楼夢」「水滸伝」「千夜一夜物語」のような欧州以外の作品を含みません。他方、ドストエフスキーやカミュの作品が他より多く収録されているという特徴があります。
②⑥⑧⑪のように巻数の非常に多い全集は偏りが少なく、より網羅的といえます。
翻訳の質について
これは実際に読み比べしないとわかりません。全集の場合、翻訳者は作品ごとにバラバラですし、出版社が違っても同じ翻訳者だったりするので、あまりこだわる必要もないかもしれません。
ただ、後に訳す人はたいてい前に出版されたものを参考にするので、新しいものの方が時代に合わせてより読みやすくなっている可能性はあります。
本のサイズ
近所の図書館から利用可能な全集本を1冊ずつ借りてきました。下の写真のように本のサイズは異なります。
『オデュッセイア』の高さが23cm、『エマ』の高さが18cm。あまり大きいと持ち出すのが厳しいですね。
活字の大きさ
古い「世界文学全集」を購入する際の最大のネックは小さい活字でしょう。下に並べた文字の画像は手元のスキャナーでスキャンし同じ倍率で表示したものです。あくまで比較のためのもので、文字の大きさそのものは現物と異なる可能性があります。
集英社『オデュッセイア』 | |
河出書房『ナナ』 | |
筑摩書房『ウェルギリウス』(参考) | |
集英社ギャラリー『フェルディドゥルケ』 | |
新潮世界文学『ヘミングウェイ』 | |
中公『エマ』 | |
河出書房グリーン版『ドン・ジュアン』 | |
新潮新書『バカの壁』(参考) |
一番活字が大きいのは一番下の新書『バカの壁』です。近年、文庫本や新書本の文字はどんどん大きくなって読みやすくなっています。それにくらべ一昔前に出版された全集本は絶望的に字が小さい。
特に、1990年代に出版された中公『エマ』の活字が意外にも小さい。本のサイズが大きい河出書房カラー版も活字は小さいままで字の間隔が広いだけ。
筑摩書房『世界古典文学全集』(他の全集と性格が異なるので上のリストには含めず)の『ウェルギリウス』の活字も同様に小さい。
でも、本当に困ったらハズキルーペをかけるという手もあります。眼鏡で文字を大きくしてしまえば、元の字が少々小さくても全然問題ないじゃないですか。
どこで入手するか
インターネットサイトのヤフオクやメルカリが便利です。ブックオフはヤフオクに多く出品していますが、店頭には古い本を置かない方針のようです。
古い本はどうしても「ヤケ」があるので、できるだけ印刷の時期が新しいものを選ぶのがよいでしょう。出版年ではなく印刷年をチェックする必要があります。