近世ヨーロッパ史が学べる海外歴史ドラマ3編

今回はヨーロッパの歴史(15~16世紀)を楽しみながら学ぶことのできる海外歴史ドラマ3編をご紹介したいと思います。どれも自分が見てはまったものです。

1. ボルジア 欲望の系譜

一つ目は『ボルジア 欲望の系譜』(2012年作品)です。サードシーズン(合計38話)まで製作されましたが、日本語字幕をつけて日本で公開されたのはセカンドシーズンまでです。ボルジア家は教皇アレクサンデル6世(ロドリーゴ・ボルジア, 1431-1503)を出したスペイン出身の名家。その息子チェーザレ・ボルジアは日本の小説やコミックの主人公として取り上げられているのでご存じの方も多いと思います。この2人、ロドリーゴと息子チェーザレを軸に、まさに欲望の達成のために命がけで行動する人たちが描かれています。

ドラマの紹介動画(Youtube) ⇒ リンク

主人公のロドリーゴの俗物感が半端ないのがこのドラマの最大の魅力です。さらにコミックのイメージそのままの美男子チェーザレの男ぶりも見どころ。高位聖職者の隠し子として生まれたゆえの内面の葛藤などもうまく表現されています。

ロドリーゴの愛人で美人の評判が高かったジュリア・ファルネーゼ役や、チェーザレの妹ルクレツィア役の女優さんたちもイメージにきっちりはまっていて視覚的にも楽しめます。

教皇アレクサンデル6世の最大の危機は、1494年に始まるフランス王シャルル8世(1470-1498, 在位1483-1498)によるイタリア侵入です。シャルルは破竹の勢いでイタリア半島を南下してローマをパニックに陥れ、1495年には念願のナポリ王となります。最終的にシャルルはイタリアからの撤退を強いられるものの、このときの縁でチェーザレはフランスと深く関わるようになります。こうした歴史の大きな流れが生き生きと描かれており退屈しません。

ネックは性と暴力の描写が過激すぎる点です。このドラマを家族みんなで楽しく見るのは不可能と断言できます。断行した場合、視聴後はきっと気まずい雰囲気になるでしょう。正直、「そこまで必要か」と思いますが、政治史が想像以上に人間の愛憎関係に左右されていることを実感できるという意味では評価できるかもしれません。

このドラマはアマゾンプライムビデオで視聴可能です。

オペラ『ルクレツィア・ボルジア』にご興味のある方にはフレミング版をご紹介しておきます。日本語字幕付です。

実はボルジア家を描いた海外ドラマはもう一つあります。邦題は『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』で、むしろそちらの方が日本ではよく出回っているようです。

日本語字幕のないDVDが安く売られていたので購入して視聴してみました。

しかし、『欲望の系譜』を見てイメージが出来上がっていたせいか、それとも単に英語(プラス英語字幕)で見るのがしんどかったせいか、途中で見るのをやめてしまいました。先に見ていたら、もしかしたらこちらにはまったかもしれません。日本語字幕付のDVDが販売されています。

あらすじはこちらのページが詳しいようです。
http://hsano.com/the-borgias/

2. The Tudors ~背徳の王冠~

二つ目は妻を次々に死刑にしたことで有名なイングランド王ヘンリー8世(1491-1547, 在位1509-1547)の生涯を描いた歴史ドラマ『The Tudors ~背徳の王冠~』(2007-2010年作品)です。シーズン4(合計38話)まであるかなりの長編ドラマですが、見始めると面白すぎて最後まで目が離せなくなってしまいます。

残されている肖像画と違い、ドラマのヘンリー8世はとてもハンサムです。君主として優れていたかどうかは別として、行動的で人間くさい、見方によっては魅力的な人物として描かれています。一方で、正妻キャサリン(カタリーナ・デ・アラゴン)への冷たい仕打ち、アン・ブーリンへの傾倒、アンを死に追いやるまでのプロセスなど暗い面もたくさん出てきます。

あらすじ ⇒ U-NEXT特設サイト

当時の政治の動き、とくにカトリックからの離脱(1534)、トーマス・クロムウェルが主導した修道院解散、トーマス・モアとその死(1535)、さらには民衆蜂起「恩寵の巡礼」(1536)なども丁寧に描かれており勉強になります。

ちなみにヘンリー8世が離婚の承認をお願いしたのに結局認めてくれなかったシュッとした顔の老人教皇クレメンス7世は、『ボルジア 欲望の系譜』とコミック『チェーザレ』では太った若者として登場するジュリオ・デ・メディチ。こうやって別のドラマと登場人物が重なるところも歴史ドラマの面白みです。両方の作品に出ている役者さんを1人だけ発見しました(『ボルジア』のアレッサンドロ役)。

このドラマも性と暴力の描写が多めなのでお茶の間での団らんには向きません。

現在(2019/04)、アマゾンプライムビデオで視聴できます。また、動画サイトU-NEXTでも視聴できるようです。U-NEXTは31日間の無料トライアルを実施中なので、トライアル期間に全編無料で見てしまうというお得な方法もあります。

オペラにご興味のある方にはアン・ブーリンが主人公の『アンナ・ボレーナ』をご紹介しておきます。ネトレプコ版(日本語字幕なし)とスカラ座版(日本語字幕あり)があります。

 

3. イサベル ~ 波乱のスペイン女王 ~

三つ目はスカパー!のチャンネル銀河で放送が終わったばかりの『イサベル ~ 波乱のスペイン女王 ~』(2012-2014年スペイン作品)。スペインのカスティリア王国イサベル1世(1451-1504, 在位1474-1504)の生涯を描いた歴史ドラマ。

このドラマの最大の魅力の一つは何といってもイサベル役の女優ミシェル・ジェネールでしょう。イサベルのカトリック教徒としての慎み深さ、女王としての意志の強さ、女性としてのやさしさと美しさを見事に表現しています。

あらすじ ⇒ チャンネル銀河特設ウェブサイト

英語字幕の第1話がYoutubeで見られるようです ⇒ リンク

この第1話の性描写はえげつないですが、その後は性も暴力も比較的控えめになり、日本の大河ドラマに近い家族で楽しめるレベルになります。

全体は3部構成になっていて第1部は王位に就くまでの苦難、第2部はレコンキスタ中心、第3部はその後の生涯が描かれています。それぞれに見どころがあり、飽きさせません。自分が特に関心を持ったのは当時のユダヤ人の描写です。イサベルの親友のベアトリスの結婚相手がキリスト教に改宗したユダヤ人(コンベルソ)。彼の人脈には改宗していないユダヤ人も多くいて、次第に彼の友人たちが迫害されるシーンが増えていきます。結局、改宗しないユダヤ人は1492年にスペインから追放されてしまいます。主人公なので命令を下したイサベルを悪く描くことはしませんが、歴史に目をつむることなく15世紀のユダヤ人迫害をしっかり描いているところは好感が持てますし、興味を引かれます。

ところで、イサベルの結婚相手フェルナンドのアラゴン王国はイタリアとの関わりが深い国です。有名な1282年の「シチリアの晩鐘事件」でシチリアからフランスのアンジュー家が追い出されたあと、新しい統治者となったのがシチリア王マンフレディ(フリードリヒ2世の庶子)の娘コスタンツァと結婚したアラゴン王国のペドロ3世(シチリア王ピエトロ1世)。このスペインによるシチリア統治は1713年のサボイア家へのシチリア割譲まで続きます。さらに1735年にはスペイン・ブルボン家がシチリア王国とナポリ王国を手に入れ、1816年には両国を統一して両シチリア王国が成立。この体制はサルデーニャ王国によるイタリア統一まで続きます。

ナポリはシチリアの晩鐘事件後もアンジュー家の支配が続き、シチリアから分離してナポリ王国になりました。しかし、1442年にはアラゴン王とシチリア王を兼ねたアルフォンソ5世(フェルナンドの父の兄)に征服されてしまい、こちらもスペインの支配下に組み込まれ、アラゴン、ナポリ、シチリアという広い領域を支配する小帝国が出現します。アルフォンソ5世の死後、ナポリだけアルフォンソ5世の庶子が継承しますが、フランス王シャルル8世はこのナポリをアラゴンから取り戻そうと軍事行動を起こします。このへんは『ボルジア』と内容がかぶるところで、イタリア戦争を「スペイン目線」で見ることができます。

アラゴン連合王国の最大領域 (1443年、出典:Wikipedia)

ドラマにはイサベルとフェルナンドの末娘カタリーナも登場します。この愛娘が『TUDORS』ではすっかり老けて邪魔者扱いされるキャサリンになるわけです。

歴史ドラマの作り方として一つ感動したのは、レコンキスタがまさに完成するシーンを描いたオルティスの絵画「グラナダ降伏」を完全再現した箇所です。こうした作り込みもこのドラマの見どころのひとつです。

放送が終わったばかりなので、今このドラマを見るには衛星放送(CS)のスカパー!かJ:COMに加入して「チャンネル銀河」が視聴できる契約を結んだ上でオンディマンドで視聴するしかないようです。

J:COM オンディマンド ⇒ https://jvod.myjcom.jp

4.その他の海外歴史ドラマ

上記3編と時代の近いその他の海外歴史ドラマを簡単にメモしておきます。

①『ホワイト・クイーン』(2013)

まだ日本語化されていない作品です。イングランドの「薔薇戦争」(1455-85)が主舞台で、物語の中心になるのは歴史に翻弄される身分の高い3人の女性です。一人目はイングランド王エドワード4世(1442-1483, 在位1461-70, 71-83)の王妃エリザベス・ウッドヴィル、二人目はのちのリチャード3世王妃アン・ネヴィル、そして三人目はのちのヘンリー7世の母マーガレット・ボーフォート。

エドワード4世はまるでディズニーアニメからできてきたようなハンサムなルックスで、選んだ女性が子持ちの未亡人エリザベス。このお似合いの美男美女カップルがけっこう苦労します。エドワード死後の弟リチャードの王位乗っ取り、そしてそのリチャードをヘンリーが撃破するボズワースの戦いまで描きます。全10話でこの内容なので中だるみなしのずっと緊張感が漂う展開です。最後は陰気なマーガレット・ボーフォートが全部持ってった印象です。

この最後の勝利者ヘンリーによりチューダー朝が開かれます。その息子があの怪物ヘンリー8世かと思うと感慨も深まります。

日本のアマゾンで安くブルーレイディスクが手に入ります。リージョンA版とリージョンB版があるのでお気をつけ下さい。日本で売られている再生機器に適合するのはリージョンAです。日本語字幕はありません。英語+英語字幕のブルーレイで視聴しましたが、役者がみんなぼそぼそしゃべるので聞き取りにくい英語です。

 

②『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮』

最後にご紹介するのはNHK-BSで放送された『クイーン・メアリー 愛と欲望の王宮(原題: REIGN)』(2013-2017年作品)。4シーズン全78話という大長編歴史ドラマ。舞台の場所はフランスとイギリスで、時代はヘンリー8世の次の世代になります。

主人公のメアリー・スチュアート(1542-87, 在位1542-67)は誕生1週間後にスコットランド女王に即位。その後、フランスに渡り王太子シャルルと結婚します。シャルルの死後スコットランドに戻るものの王位を失い、逃亡先のイングランドで長い幽閉生活を過ごし、最後は死刑に処される。こんな波乱に満ちた人生を送る女性もそうそういないと思います。

メアリーの父の母はヘンリー7世の長女マーガレット・チューダーなので、メアリーはヘンリー7世のひ孫になります。当時のイングランド女王エリザベスはヘンリー8世の子でありながらも母がアン・ブーリンのため庶子として育てられ正当性に疑問があったのに対し、メアリー・スチュアートの血統には何の欠点もありませんでした。

メアリーにはイングランド王位継承権があり、本人もそれを放棄するどころか王位への野心を最後まで捨てませんでした。結局これが徒となって、最後はエリザベスから死刑を言い渡されます。

このエリザベスとメアリーのライバル関係がドラマ後半のベースになります(前半はシャルルとのロマンス中心)。

このドラマの難点はフィクションが多すぎるところと全体が長すぎるところです。またオカルト要素がかなりのウェイトを占めるのも上記の他のドラマと異なる特徴です。豪華なセットや衣装など見どころはたくさんあるので、普通の恋愛ドラマを見るつもりで気軽に見れば、意外な発見もあってかなり楽しめると思います。

日本語字幕付のDVDが販売中です。

メアリー・スチュアートが主人公の『マリア・ストゥアルダ』というドニゼッティのオペラもあります(日本語字幕あり)。

 

以上、自分がはまった海外歴史ドラマをご紹介しました。15~16世紀限定とはいえ世界史の勉強にかなり役立つと思います。興味を引いた作品があればぜひ。

Nobuhisa Kajiyama

イタリアニスタ。イタリア語翻訳の日伊サービス代表責任者。インテリスタ、カープ男子、オペラファン、写真好き、天文学初心者。

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